米イラン紛争の激化を受けて原油価格が1バレル100ドルを突破し、タイ政府が緊急の資金繰り対策に乗り出した。国内の燃料価格を抑えるために設けられた「石油燃料基金」の残高が急速に減少しており、商業銀行からの融資確保を検討している。
■補助金基金は残り数日分か
タイでは石油燃料基金を通じて、ディーゼルやガソリンの小売価格に補助金を支給し、消費者の負担を抑えてきた。しかし現在、基金は1日あたり約7億バーツ(約28億円)を支出しており、残高はわずか20億バーツ強(約80億円)にまで縮小。単純計算で数日分しか残っていない状況だ。
エネルギー政策計画局のワッタナポン・クロワット局長は、2022年から2023年にかけてロシアのウクライナ侵攻で原油価格が高騰した際と同様の緊急融資を検討していると明らかにした。融資額は石油燃料基金事務局、財務省、消費税当局の3者で協議中で、政府の現行補助金プログラムが終了する3月17日までに最終決定される見通しだ。3月9日時点で、軽油には1リットル当たり約11.73バーツ、レギュラーガソリンに相当するガスオール各種にも3〜4バーツ台の補助金が投入されている。
タイの石油消費量は1日あたり約1億5300万〜1億5500万リットルに上る。匿名を条件に取材に応じたエネルギー当局者は「基金の債務がさらに膨らめば、小売価格の上昇を抑えるため消費税の減税も選択肢に入る」と語った。
■最悪の場合は配給制も視野に
世界的な原油高の長期化、備蓄の減少、輸送の遅延が同時に起きる最悪のシナリオでは、病院・警察・軍を優先した燃料の配給制が導入される可能性もある。タイで配給制が実施されたのは1973年と1979年の石油危機時が最後で、実現すれば約50年ぶりとなる。政府は中東以外からの調達先の多様化を進め、現在は消費量の約95日分に相当する備蓄を確保しているという。
エネルギー事業局のサラウット・ケオタティップ局長は「現時点でタイ向けの供給量に影響は出ていない」と説明した。一方、内閣は3月10日に省エネ計画を審議する予定で、在宅勤務の推奨など自主的・強制的な節電措置が盛り込まれる見込みだ。
■電力の6割を天然ガスに依存する構造的リスク
タイの電力生産の約60%は天然ガスに依存しており、原油高はガス価格にも波及する。天然ガスの供給源は国内産が約60%、隣国ミャンマーからのパイプライン輸送が約15%、液化天然ガス(LNG)の輸入が約25%という構成だ。世界のLNG価格も原油に連動して上昇しており、日本や韓国の指標となるプラッツJKM先物(2026年4月納品)は100万BTU当たり15.71ドルと前日比1.39%上昇した。
ただし、在宅勤務が広がれば家庭でのエアコン使用が増え、かえって天然ガスの消費を押し上げるリスクもあると当局者は警告している。タイ電力公社(Egat)のナリン・ポワアニッチ総裁は、カタールからホルムズ海峡を経由して届くLNG輸入船を追跡する24時間監視センターを設置したことを明らかにした。ホルムズ海峡は世界の原油・LNG輸送の要衝であり、米イラン間の緊張が高まる中、輸送ルートの安全確保が課題となっている。
Egatはさらに、北部ランパン県にある石炭火力発電所の稼働準備や、国内の水力発電施設の活用、ラオスからの電力購入量の引き上げなど、予備電源の確保を急いでいる。
タイ政府は補助金の維持、緊急融資、節電対策、エネルギー源の多様化を組み合わせることで、世界的なエネルギー危機の影響から国民生活と経済活動を守る方針だ。タイに暮らす日本人や日系企業にとっても、燃料費や電気代の上昇は生活コストに直結するだけに、今後の政府対応を注視する必要がある。
出典: Bangkok Post



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