タイ最大の商業銀行バンコク銀行(BBL)のチーフエコノミストが、原油価格の急騰について「コードレッド(危険水域)」に突入したと警鐘を鳴らした。中東情勢の緊迫化がタイ経済や世界経済の回復に深刻な影を落としている。
■原油110ドル突破で「コードレッド」宣言
バンコク銀行の上級執行副社長兼チーフエコノミストであるコブサック・プートラクールさんは、イランの石油貯蔵施設が攻撃を受けたとの報道を受け、原油価格が1バレルあたり約110ドルまで急騰した状況について、自身のフェイスブックで危機感を表明した。同氏は、紛争がイランへの攻撃という新たな段階に入り報復リスクが高まっていることで、港湾や石油タンカー、製油所、ガス処理プラント、石油貯蔵施設など中東全域の石油関連インフラが攻撃対象になりかねないと指摘。さらにエスカレートすれば、湾岸諸国の生活を支える海水淡水化プラントまで標的となる恐れがあるとした。
コブサック氏は「価格が早期に落ち着かなければ、世界経済に深刻な影響を及ぼす水準だ」と述べ、2022年のロシアによるウクライナ侵攻初期と同様の事態を懸念した。当時は原油価格が3月から7月にかけて1バレル120〜130ドル台で高止まりし、世界各国でインフレが急進。生活費の高騰、各国中央銀行による急速な利上げ、資産価格の下落、暗号資産バブルの崩壊など、広範な経済的混乱を引き起こした。
■タイ経済への影響は GDP最大0.8ポイント減速も
タイもロシア・ウクライナ戦争の際に大きな打撃を受けた経験がある。国内の燃料価格が急騰し、タイ政府は価格安定化のために大規模な補助金投入を迫られ、数千億バーツ(1バーツは約4円)規模の財政負担が生じた。タイはエネルギーの多くを輸入に依存しており、原油高の影響を受けやすい経済構造にある。
タイの大手銀行カシコン銀行の調査部門であるカシコーン・リサーチセンターは、紛争が3カ月以上続きブレント原油が1バレル80ドルに上昇する最悪シナリオでは、タイの今年のGDP成長率が0.6ポイント低下する可能性があると分析した。エネルギーコストの上昇に加え、タイの基幹産業である観光業や輸出にも悪影響が及び、総合インフレ率は基本予測から約1ポイント上振れする恐れがある。経常収支の悪化に伴い、安全資産とされる米ドルへの資金シフトも重なって、タイバーツの下落圧力が強まる可能性も指摘された。
一方、タイ大手サイアム商業銀行(SCB)系列のSCB経済情報センター(EIC)は、ブレント原油の平均価格が1バレル107ドルに達する最悪シナリオでは、タイのGDP成長率が最大0.8ポイント減速し得ると試算した。2026年のタイのインフレ率は約1.5%まで上昇し、タイ中央銀行が目標とする1〜3%の範囲に早期に戻ると見込まれるが、紛争が広域的な地域戦争に発展すればインフレ率は4%を超える恐れもあるという。EICは「中東紛争リスクに対応するため、タイ中央銀行にはさらなる利下げ余地があるかもしれない」との見方を示した。
■タイ政府に求められるエネルギー安全保障の強化
コブサック氏は政府に対し、他国に先んじた石油供給の確保を急ぐよう提言。加えて太陽光発電や電気自動車(EV)の普及促進といった代替エネルギー戦略の加速、石炭利用の再検討、さらにはロシアからのエネルギー輸入ルートの再開検討など、あらゆる選択肢を視野に入れるべきだと訴えた。タイはEVの生産・普及で東南アジアの拠点を目指しており、エネルギー多様化の動きが今後さらに加速する可能性がある。在タイ日系企業や駐在員にとっても、燃料費やタイバーツの動向は生活・ビジネスに直結するだけに、今後の中東情勢とタイ政府の対応を注視する必要がありそうだ。
出典: Bangkok Post



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