中東情勢の緊迫化による原油価格の高騰を受け、タイ経済がスタグフレーションに陥るリスクが高まっている。新政権がいまだ発足できない政治空白も重なり、有効な経済対策が打てないまま景気が悪化する恐れがあると、現地の専門家が警鐘を鳴らした。
CIMBタイ銀行調査センターのチーフエコノミスト、アモンテップ・チャウラさんは、タイ経済が2024年上半期に横ばい、もしくは前期比でマイナス成長に転じる可能性があると予測した。火曜日時点で原油価格は1バレル100ドルを下回る水準まで下落したものの、中東の主要な原油輸送路であるホルムズ海峡の封鎖リスクやイランと米国・イスラエル間の緊張の高まりから、先行きは依然として不透明だという。ホルムズ海峡はペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ海峡で、世界の原油輸送量の約2割がここを通過するため、封鎖されれば国際原油市場に甚大な影響を及ぼす。
アモンテップさんは「産油国が生産量を絞っている上に、地域紛争で供給がさらに制限されている」と指摘。現在の価格水準であれば政府にとって石油関連の問題は管理可能な範囲だとしつつ、「燃料補助金はばらまき型ではなく対象を絞り、省エネを促す政策に転換すべきだ」と提言した。
一方、中東の紛争が激化し2カ月以上長期化した場合、タイ経済への打撃は深刻化し、金融政策だけでは対処しきれなくなるとの見方を示した。タイ中央銀行は先月、低迷する景気をてこ入れするため政策金利を予想外に1.00%まで引き下げたが、当面は追加利下げの余地がないとの姿勢を示している。
アモンテップさんは「スタグフレーションが現実味を帯びてきた。特に新政権が発足していない今の状況では、迅速な財政出動が難しい」と危機感をあらわにした。タイでは総選挙後の連立協議や憲法裁判所の判断をめぐる混乱が続き、本格的な予算編成を担う新政権の樹立が大幅に遅れている。経済の立て直しに財政政策が不可欠な局面で、予算が制約されるリスクがあるという。
スタグフレーションとは、景気の停滞(スタグネーション)とインフレーション(物価上昇)が同時に進行する状態を指す。1970年代のオイルショック時に広まった概念で、金融緩和でも財政出動でも解決が困難な「最悪の経済状態」とされる。
CGSインターナショナル証券の試算によれば、原油価格が1バレル100ドル前後の水準で半年間続いた場合、タイのGDPは消費の冷え込みと貿易収支の悪化を主因に0.3〜0.6%押し下げられる見通しだ。同証券のカセム・プルンラタナマラ調査部長は「その場合、政府は石油燃料基金を活用して国内への影響緩和を図るだろう」と述べた。石油燃料基金はタイ政府が国内の燃料価格を安定させるために設けた基金で、価格高騰時に補助金を拠出する仕組みになっている。
カセムさんは主な下振れリスクとして、中東紛争の長期化、原油高の定着、外国人観光客数の急減、そして国内政治の不透明感の再燃を挙げた。タイ経済は観光業への依存度が高く、GDPの約2割を占めるとされるだけに、地政学リスクによる旅行需要の減退は景気回復の大きな足かせとなりかねない。
出典: Bangkok Post



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